探究の授業でAIを使う「最初の1コマ」のつくり方
授業へのAI導入について相談を受けるとき、私たちは「最初の1コマにいちばん力を入れてください」とお伝えしています。道具の位置づけは最初の体験で決まり、あとから直すのは大変だからです。最初の時間に「宿題を代わりにやってくれる道具」として出会った生徒と、「考えるときの相棒」として出会った生徒では、その後の使い方が変わります。
この記事では、探究の授業を想定した最初の1コマの設計例を紹介します。もちろん学校や学年によって調整は必要ですが、考え方の骨組みとして使ってください。
目標を「使い方を覚える」に置かない
まず目標設定です。操作方法の習熟を目標にすると、この時間は情報機器の講習になってしまいます。今のAIはチャットで話しかけるだけなので、操作はほとんど教えることがありません。
代わりに置きたい目標は、「AIとの適切な距離感を体験する」です。具体的には、この2つを生徒が実感して帰ること。
- AIは考えを進めるのに役に立つ、という実感
- AIの言うことは、そのまま信じてはいけない、という実感
便利さと危うさを、両方いっぺんに体験させる。これが最初の1コマの仕事です。
50分の流れの一例
導入(10分): AIは何が得意で、何が苦手か
最初に、AIが間違える実例を見せます。実在しない本を紹介させる、事実と違う説明をさせるなど、教室のスクリーンで実演できると効果的です。「賢いのに、堂々と間違える」という体験を先に共有しておくと、その後の使い方に自然とブレーキがかかります。
体験(25分): 自分の「気になること」をAIと話す
課題を与えるのではなく、「最近気になっていること、モヤっとしたことをAIに話してみよう」とだけ伝えて、あとは自由に対話させます。探究のテーマ探しの入り口をそのまま体験に使う形です。
この時間の先生の仕事は、机間巡視で対話の様子を見ることです。すぐ遊び始める生徒、真剣に相談し始める生徒、何を打てばいいか分からず固まる生徒。この時点での様子が、その後の支援の貴重な情報になります。固まっている生徒には「今日の天気の話でもいいよ」と入り口を下げてあげてください。
振り返り(15分): 対話を見返して、何が起きたかを言葉にする
最後に、自分の対話ログを見返して振り返ります。問いの例をいくつか挙げます。
- AIとのやりとりの中で、自分の考えは変わったか。どこで変わったか
- AIの答えの中に「本当かな?」と思うものはあったか
- 人間に相談するのと、何が同じで何が違ったか
この振り返りこそが本体です。体験だけで終えると「面白かった」で流れてしまいますが、言葉にすることで、AIとの距離感が生徒の中に残ります。
ルールは配るのではなく、一緒に作る
禁止事項のプリントを配って読み上げる方法は、手軽ですが効きません。おすすめは、体験のあとに「このクラスでAIを使うときのルールを決めよう」と投げかけて、生徒から出させることです。
体験を経た生徒からは、「答えを丸写しにしない」「個人情報を入れない」といったルールが、たいてい自分たちの言葉で出てきます。自分たちで決めたルールは、配られたルールよりはるかに守られます。先生は、抜けている観点(入力してよい情報の範囲など)を補うだけで十分です。
うまくいかないことも、織り込んでおく
最初の1コマが計画通りに進むことは、まずありません。ふざけた質問をAIに投げる生徒は必ずいますし、沈黙してしまう生徒もいます。それらは失敗ではなく、想定内の風景です。ふざけた質問への AIの返し方も含めて振り返りの材料にしてしまえば、すべてが教材になります。
大事なのは、最初の1コマで「この道具とどう付き合うか」という問いを生徒の中に立てることです。その問いさえ立てば、あとの時間は生徒自身が学んでいきます。